古代の法概念のおさらいに |
『法思想の層位学』平凡社、一九八六年 |
ヒストリー・オブ・アイディアズのシリーズの一冊で、「法の概念」「古代ギリシアの法観念」「古代ローマの法概念」「正義」の四つの論文を集めたもの。短い論文集だが、古代のギリシアやローマの法の概念についておさらいをするには役立つ。 グラハム・ヒューズの「法の概念」は、古代ギリシアのピュシスとノモスの対立を紹介したあとで、オースティン、ケルゼン、ハートの法実証主義の流れの紹介に進む。もう少し目配りがほしかったところである。 マーティン・オストワルドの「古代ギリシアの法観念」は、この分野の専門家の力のこもった論文。アルカイク前期にはテミスとディケの概念が法の基本的な概念であるが、テミスは幅の広い概念で、社会に秩序と規則性を与える社会構造の側面を指す傾向がつよいことが指摘される(40)。これにたいしてディケは社会のうちで個人に割り当てられる場所を記述するのである。 アルカイク後期には、成文法が成立し、レトラとかタ・エイレメナとか、ト・グラマタなど「書かれたもの」という意味をもつ言葉が成立する。法としてはテスモスの語(置かれたもの)が登場するが、テミスとは違って、社会的・政治的な秩序を示すものではなく、行為主体が「置く」、定めるという意味がつよくなる。 古典期になると、法はテスモスからノモスに移行するが「それは意図された政策の結果」(73)とされている。ノモスの初出はアイスキュロスの『救い求める女たち』で、前四六三年頃である。ノモスは初期のうちには価値の高いものとして考えられているが、ソフィストの登場とともに、ノモスの相対化が行われ、「価値剥奪」が進むことになる。 ゲインズ・ポウスト「古代ローマの法観念」はローマ法の遺産を示すには、あまりに短い。それよりもモーリス・フォーコッシュ「正義」で引用される正義を賢者の善意(カリタス・サピエンテス)とするライプニッツの定義が妙にきになる(152)。 データ タイトル 法思想の層位学 責任表示 G.ヒューズ〔ほか〕著 責任表示 森村進,石山文彦訳 出版地 東京 出版者 平凡社 出版年 1986.11 形態 179p ; 18cm シリーズ名 叢書ヒストリー・オヴ・アイディアズ ; 2 内容細目 法の概念 グラハム・ヒューズ著 森村進訳. 古代ギリシアの法観念 マーティン・オストワルド著 森村進訳. 古代ローマの法観念 ゲインズ・ポウスト著 森村進訳. 正義 モーリス・D.フォーコッシュ著 石山文彦訳. 解説 森村進,石山文彦著. 各章末:文献 ISBN 4-582-73352-2 入手条件・定価 1600円 全国書誌番号 87021074 個人著者標目 Hughes,Graham Beynon John. 個人著者標目 森村, 進 (1955-) ‖モリムラ,ススム 個人著者標目 石山, 文彦 (1961-) ‖イシヤマ,フミヒコ 普通件名 法律学 -- 歴史 ‖ホウリツガク -- レキシ NDLC A124 NDC(8) 321.2 本文の言語コード jpn: 日本語 書誌ID 000001843616 2003年11月15日 (c)中山 元 |